アメリカ国債の引き受け先をグラフ化してみる
2008年06月16日 12:10
先に【石油と食料品急騰で懸念されるアメリカのインフレ加速・金利引き上げの噂も】でFRBがインフレ絡みから金利引き上げをするのではないかという観測が流れているという元記事の言い回しを見た際に、「そういえばアメリカの国債ってどこが買ってたんだっけ、日本が’最上位のお得意様’だったような」ということが頭に浮かんだ。金利が上がれば国債の利回りも上がり国家的な負担もキツくなる。そのあたりのバランスも考える必要があるはずだ。日本も人のことはいえないが、アメリカも相当国債を発行し、財務的な負担になっているはず。そして国債は国の借金だから、それを引き受けている国はアメリカとの関係も密接なものとなり、影響力も持つはず……ということで、早速調べてみることにした。
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念のために確認しておくと、「国債」とは(はじめから利率分を割り引いている場合もあるが)「この証書の期限に、書いてある利息分を追加して返すので、お金を貸してください」という国の借金証明書のことを指す。英語の場合はTreasury securities(国庫証券)と表現する。
さてアメリカ発行の国債(以後米国債と略す)の引き受け先データはどこで手に入るのか。【アメリカ合衆国の国庫部門専用ページ】から入手することが出来た。具体的には【過去のデータはこちら】 、【直近データはこちら】。
該当ページには各国の保有額はドルベースで算出され、主要国分のデータが掲載されている。そのうち日本をはじめ、主要国上位6か国(エリア)を抽出してグラフ化したのがこちら。2000年3月から最新データの2008年3月分までが対象。毎年期間切り替えの時期があるので、その部分は差が生じないように調整をしてある。要は概要が分かればよい。
米国債の引き受け先(全体額含む)
ちなみに※1の石油産出国は中東諸国以外ベネズエラ、インドネシアなども含む。また※2のカリブ諸国の銀行とは俗に言う「タックス・ヘイブン」なところ。実際の金主は不明、というところか。
第一印象は「国債って借金なんだから、もう少し減らすこと考えろよ」という突っ込み。2003年以降、国債額が際立って上昇しているのが分かる。ちょうどその頃、アメリカなどによる対イラク戦が始まったことから、いかに財務的な負担となっているかが分かる。また、ドルベースの絶対額的に見ても、日本がなだらかな下降線を描いていること、中国などが買うボリュームをふやしているのが見てとれる。
この傾向は、全体額を除いたグラフで見るとさらに明らかになる。
米国債の引き受け先(主要国のみ)
いずれもドルベースであることを前提として、だが、イギリスが柔軟な運用をしていること、ブラジルが地道に、そして2006年中盤以降猛烈な勢いで買い集めているのが分かる。そしてそれ以上に中国が2002年中盤以降大規模な購入をしていることや、日本の保有額が少しずつだが減少しているのが一目瞭然。
それでは各国の引き受け額が発行額全体に占める割合はどのくらいで、どのような変化を示しているのか。比率それぞれの比較と、全体軸に配したグラフの双方で表してみる。
米国債の引き受け先(全体軸に配したグラフ)
米国債の引き受け先(折れ線グラフ)
オイルマネーと呼ばれる石油産出国は意外に買い増しをしていない。その一方、日本の取得配分比率の減少分を中国などの新興国などが買い取っているのがよく分かる。
少なくともこのグラフを見る限り、「国債を持っている(借金証書が手持ちにある)」という意味では、アメリカに対する中国やブラジルなどの意見力は強まっている、と考えるのが正しいのだろう。実際には市場利回りなどが大きく影響するので、それほど大きな意味はないだろうが。
また、これらのグラフはあくまでもアメリカの立場から見たもの。つまり繰り返しになるがドルベースでの計算なので、日本円に計算した場合の日本の米国債の購入額はもっと少なくなる(何しろこの数年来、かなりの円高が進んでいるのだ)。日本が対外債の購入割合・額を大幅に減らしたという話は聞いていないので(年金などで運用を弾力化し、手堅い債券から株式などに割合をスライドさせるという話はある(【年金運用、第2四半期は1.6兆円の赤字・サブプライム問題の影響色濃く】))、ここまではっきりとした減少は少々珍しいお話。
これは中国やブラジルなど「原油価格の高騰や経済の急成長でお金持ちになった国」の購入割合が増えていることとあわせて考えると、日本が持っている米国債の満期後にすべての買い替えをしなくても、これらの国が「我も我も」と手を挙げて買っているからだと思われる。
さてそれでは、米国債に充てられていた債券予算の一部はどこに回っているのか。手持ちの資料でははっきりしたことは分からないが、年金運用などの状況をみる限り、ユーロ諸国の債券に充てられているものと思われる。日本の債券売買において積極的にユーロが買われ、ドルへの買いが消極的になることで、円ドルレートがドル安に進み、円ユーロレートがユーロ高に進むことに拍車をかけた……のかもしれない。
※2008.10.7.追加:他所からの参照が多いようなので、アンケートを取ることにしました。
※2009.01.11.追加:最新データを反映させた記事を更新しました(下記リンク参照)
(最終更新:2013/08/05)
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